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長崎家庭裁判所 昭和40年(少ハ)1号 決定 1965年2月24日

少年 M・T(昭二一・一二・二〇生)

主文

在院者M・Tを昭和四〇年五月二六日迄特別少年院に継続して収容する。

理由

本件申請理由の要旨は、本件在院者は昭和三九年二月二七日当裁判所において期間を一年間と定めて特別少年院に戻して収容する旨の決定を受け、該決定に基づき同年三月三日から肩書住居地の大分(特別)少年院において収容教育を受けている者であるが、右収容の期間が昭和四〇年二月二六日に満了となるところ、本件在院者においては、昭和三九年末頃から幾分成績向上の状況にあるけれども、それ迄、指示違反(同年八月)、喧嘩(同年九月)、喫煙(同年一〇月)等により、夫々七日間の謹慎処分を受けたこと、処遇段階においては未だ一級の下にとどまつていること、且つその性格及び行動面においては、ボス的派閥的傾向、自省力の乏しさ及び独善的攻撃的反抗的態度に陥り易いこと並びに昭和四〇年一月には煙草所持で課長訓戒を受け、なお更生意欲に乏しいこと等が夫々窺われ、その安定した社会復帰を図る為には、右期間満了後も収容教育を継続し、最高の処遇段階である一級の上の課程を終了させることにより、以上の問題点につき一層の改善をなすこととするのが必要であると思料されるので、主文同旨の決定の申請に及んだ次第である、というにある。

よつて、前記少年院分類保護課長法務教官横山初夫及び当裁判所調査官補内田淑子の各意見、その他本件審判の結果並びに少年調査記録等を検討するに、本件在院者は中学二年時(昭和三五年)頃から著しく怠学不良交友等に耽るようになり、昭和三五年六月二日には、その窃盗等の非行により児童相談所において居宅指導の措置(児童福祉法第二七条第一項第二号)を、又当裁判所において、同三六年五月一七日には、その“たかり”や家出浮浪等の非行(以上は虞犯事件として係属)により保護観察決定を、更に同年一〇月二六日には、恐喝強姦及び虞犯(怠学無断外泊)等の非行により初等少年院送致決定を夫々受けたが、佐世保(初等)少年院に収容された後においても、傷害兇器所持暴力行為喫煙等に及んで院内の処分を受けることがあつた。しかも同三七年一二月二七日同院を仮退院した後、鹿島市内で地道に稼働したのも約二週間に過ぎなく、以後保護観察所の指示を無視して長崎市に赴き、やがて、やくざの許に身を寄せ、時偶、土工仕事に従事する外は、全くやくざの生活に親和して徒遊盛場徘徊に耽り、なおも暴力行為虞犯(不良交友)及び道交法違反等をなして当裁判所において同三八年九月一九日試験観察に付されたものの、依然として更生意欲に乏しく、やくざとの交友を復活し、女と同棲し、不良仲間の喧嘩に介入して金銭を強要する等に及び、且つ、保護観察所の指示する各遵守事項にも著しく違背して、遂に戻し収容決定の申請をみ、同三九年二月二七日当裁判所において期間を一年間と定めた前記戻し収容決定を受け、大分(特別)少年院に収容されるに至つたものである。その院内の行動及び性格面における状況等は本件申請理由のとおりであり、これ迄にも早くから、その知能面において稍劣り(準普通知)、性格面においては、粗暴闘争反抗的にして且つ外界の刺激に対し過敏である等の負因が強度で、又精神病質の疑いがもたれていることが指摘されてきたところである。

而して、本件在院者の家庭(成育)環境面をみるに、その幼児期(昭和二四年)において実父の女遊び等に原因して実父母が離婚し、実母は、本件在院者及びその同胞を実父の許に残した儘、他の男と同棲し(現在、同棲中の義父はその後に知り合つたものである)、又昭和二九年から同三二年頃迄の間本件在院者らに対し全く所在を晦まし、実父は実母が去つた後、後妻を迎え入れたが、本件在院者の小学五年時(同三三年)に病死して後妻も去り、以後本件在院者は長兄や長姉の許を転々して成長してきたものである。又家族のうち、実父長兄次兄四兄はいずれも前科(賭博、窃盗、傷害等)若しくは非行(窃盗、傷害等)歴を、及び長姉は売春歴、三姉は接客婦の職歴を夫々有し、しかも実母の保護の態度は、本件在院者が前記のとおり素行悪化の道を辿つている間においても盲愛且つ放任的であつて、これら環境条件は全く劣悪なものというべきものであつた(本件在院者の素質的負因もさることながら、以上の家庭環境面における劣悪なる状況が本件在院者の非行化を促進せしめた主因の一つであつたことは容易に首肯し得られるところである)。しかも、現在においても、本件在院者の次兄及び四兄はやくざとして、隠然たる勢力を有し、義父は老齢にして、実母の本件在院者に対する態度も従前のそれに較べて些かの変化もみられず、その外諸般の事情を斟酌しても、結局、家庭に十分の監護能力はこれを期待し難いし、更に本件在院者が退院した後においては、従前の不良徒輩からの呼び掛けが強く予想されるところである。

而して、以上の本件在院者の素質行状環境等の諸事実に鑑みると、たとえ、実母及び義父等において本件在院者が大分少年院に収容された後も努めて面会に赴いて本件在院者との親和を図つていること、在院者においても、現在、一応精神的に安定し、昭和四〇年二月一五日から作業班長及び週番として他の在院者の指導に当つていること、又退院の暁には、これ迄に少年院において習得した木工の技術を以て身を立てることを考え、実母においてはその受け入れ先として、既にその居住地鹿島市内の某指物大工の許に住込就職の口をみつけていること等の諸事情がみられるけれども未だこれらを以つてしては、前記戻し収容期間満了によつて本件在院者をして直ちに社会復帰をなさしめるには、その犯罪的傾向の矯正及び更生意欲の保持等において十分であるとは認め難く、むしろ、右復帰をなさしめることは不適当のものであると云わざるを得ない。

しかるに、前記戻し収容決定は収容期間として満二〇歳未満における一定期間を定めたものであるところ、かかる場合に右期間を定期刑的に考察し、該期間満了に当つて収容継続に関する少年院法第一一条第二乃至四項の類推適用を認めないとすることは、少年院の本来の目的が累進処遇を基礎として在院者につきその犯罪的傾向の矯正又は心身の著しい故障の回復を全うして健全なる状態における社会復帰を図ることにあるものと云うべきであるのに、これに対して全く異質的なものを持ち込むものであつて、少年院内の規律維持に重大な支障を来たす点はともかくとしても、在院者の福祉(保護育成)及び社会防衛の見地からも相当でないものと云うべく、結局、前記戻し収容決定において一定期間を定めた趣旨は、該期間満了の際に少年院法第一一条第二項所定の事由のない場合においては、在院者を退院させることを要するものとしたのに過ぎないと解すべきである。

よつて、本件少年院長の申請は全て理由があるものと云うべきであるから、少年院法第一一条第四項を類推適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木健嗣朗)

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